「こんなとこにいても、風邪引くし、社宅のエントランスで立ち話してると、うちの社員に見つかるよ」と、長井に背中を押された。

私は、すごく疲れてたし、ずぶ濡れのまま自転車を押して帰るなんて事、出来ればやりたくない。

エレベータで上がって、長井の部屋に入った。もちろん、付き合ってた頃には、お互いの部屋を行き来してたから、彼の部屋に入るのは初めてじゃない。


それなのに、すごく緊張してる。彼が、初めて部屋に招いてくれた時のように。



彼の部屋は、片付いていた。

というより、汚してない。という方が正しい。

使ってない部屋もあるから、1ヶ所に荷物を押し込んで、後のスペースは、最低限の家具と電化製品だけ。リビングもがらんとしていた。


まだ、開けてない段ボールが置かれてる。それをみると、引っ越してきたばっかりなんだなと思う。