飛梅ちゃん

時間は夜の7時を回ったばかりだ。

家賃は軽く25万を超えるであろうマンション。

そのマンションの11階の1106号室の前に女の影がある。

インターホンを鳴らし、少し待つと玄関扉が開いた。

「入れよ。」

無愛想にも聞こえる声に、女の心は弾んだ。

女は、玄関に入ると中にいる男に言った。

「賢人、逢いたかったよ。」

男は、女を見ると言った。

「あい、急に会いたいってのは無しだって言ったろ?」

あいは、すねたフリをして賢人の気を引こうとするが、賢人は部屋の中へと一人入って行く。

あいは、お気に入りの白いハイヒールを脱ぐと子犬のようについて行った。

リビングの中に入って、あいは言う。

「最近、なんか良くないことが続いちゃって…賢人に会いたくなって…」

あいは、脳裏にあの少女がよぎる。

賢人も、あいの言葉を聞いてあの少女がよぎる。

賢人が、その恐怖をぬぐう様に言う。

「また、店来いよ。たまには息抜きした方が良いんじゃないか?」

あいは、リビングの黒いソファに座ると立っている賢人を見て言う。

「お店じゃないとダメ?今日みたいにもっと会えない?」

賢人は、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。
中を覗くと、缶ビールを取りだし冷蔵庫を閉めた。

缶ビールを開け、あいの方を振り向く。

「あい?」

「え?」

「お前、なんのつもりだ?」

あいは、賢人の言っている意味がよくわからなかった。

賢人は、あいの近くにゆっくりと寄って再び言う。

「お前は、俺の何だと思ってるんだ?」

あいは、賢人の目を見て怒っていることを察知して目を伏せる。

「賢人こわい…」

賢人は、あいの隣に座ると言う。

「お前は、何だって聞いてるんだけど?」

あいは、小さい声で言う。

「彼女…」

賢人は言う。

「彼女なら、彼氏の言うこと聞けるよな?」

あいは、沈黙する。