時はさかのぼり百年前ほど前。人々は万物に信仰の念を抱き、畏れ、恐れていた時代。

この時代とある谷間に小さな村があった。この村の者は特に物の怪に対する恐怖心が強く、日が沈む前に皆家の中へ入り必ず念仏を唱え寝床につくほどであった。
ある雨の日のこと、村の近くに地獄へと通じる道が生じた。そこへまだ幼い鬼の子が迷い込んだのを運悪く村人が見つけてしまった。

雨のせいか道はぬかるみ、地獄のような乾いた岩肌に慣れ親しんだ鬼の少年にとっては走るどころか歩くのもやっとであった。
「こいつ、やっぱり鬼の子だぞ!」
少年はぬかるみに足を取られて転んだところを数人の男に捉えられた。
「早いところ殺しちまおう。」
「そうだ、そうだ病を持ち込まれては困る。」
殺せ、殺せと囃し立てる男達。すると一人がこう言い出した。
「おい、角はもしかしたら高く売れるかもしれない、先に取っておこう。」
それもそうだとほかの男はみな同意した。

暴れる少年を二人の男が抑え、正面に斧を構えた男が立った。
男は勢いよく斧を振り下ろし少年の左の角を折った。
「…………っ!!!!」
声にならない叫び声を上げる少年、次いでまた男が斧を振り上げた。