……私に気づいて欲しいこと?
沢田の説明通りに教科書を開き、周はノートに黒板の字を写す成海を一瞥した。彼は何事もなかったように授業を受け、背中にクラスメイトの視線を受けている。
2限目の空は、朝よりも雲が減っていた。
……気づいて欲しいことって、なんだろう。成海が罪を被る理由。それは、どうしてなのか。
「つまりこの場合、主人公は……」
黒板に簡単な図を描き、沢田は指揮棒を器用に使って淀みなく生徒たちに教えていく。
「じゃあ、実際にノートに書くか」
そう言って沢田が黒板に文字を書き始めた瞬間、周の肩が2度叩かれた。反射的に振り返ると詩織がにこやかに笑っていた。
「さっきの時間、成海とどこにいたの?」
「……え?」
突然の問いに戸惑い、周は眉を寄せた。
「見てたんだ、実は。普段2人ともあんまり教室から離れないのに、葉月さんが出て行ったあと、成海が出て行ったでしょ。なんで?」
「……それは」
詩織の暗く光る目で見つめられ、心の隅に虫が這っているような感覚を覚える。思考を読み取ろうと詩織の顔を観察するが、朗らかな笑顔があるのみで、何も理解することはできなかった。
……成海と東階段で話していた、と、河野さんに伝えていいのか。
詩織の開いたままのカラフルな筆箱から、赤いカッターナイフが覗いていた。
「……私はトイレに行ってただけ。今日は生理痛が酷くて」
「……生理痛?葉月さん、生理なの?」
「……うん」
とっさについた嘘だった。
「大丈夫?薬あるけど」
詩織が自分のリュックに手を伸ばしかける。
慌てて彼女の言葉を遮り、周は作り慣れない笑みをたたえた。
「ありがとう。大丈夫、
さっき呑んできたから」
詩織が息を呑む。彼女の提案をやんわりと断り、周は再び前を向く。



