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高瀬くんと食事をして一緒に帰った夜、彼が打ち明けてくれたのは〝1年片思いした相手と、やっと付き合えることになった〟という大変喜ばしい報告だった。

……その相手が、うちの部署であるお客様相談室の室長だったことを知って、本当に驚いたが。

私たちと室長は10歳ほど離れているので、最初は全く相手にされなかったらしい。それでも何度もアタックし続けた高瀬くんは、相当頑張ったと思う。


『松井に知られるのが恥ずかしくて、いつも彼女がひとりの時を狙って話しかけてたんだ』


電車に揺られながら、酔いの力もあってか気分良く話してくれた高瀬くんは、とても嬉しそうに見えた。

私は周りに気を配るどころではなかったので、まさか高瀬くんと室長がそんなことになっているとは露にも思わなかったが。
毎日顔を合わせていたのに、室長の動じなさには感服するばかりだ。


『俺は松井にも、幸せになってもらいたいんだけどなー』


横目でちらりと見られて、返答に詰まった。私はバッグの持ち手を握り直す。


『そ、そうだね。いつかは』

『駄目。今すぐ』

『だって、相手がいないから』


酔っ払い相手に本気で返してはいけないと思いつつも、ついムキになってしまう。


『いい加減、好きだって言えばいいじゃん』

『何言って……』

『俺から見れば、完全に恋してるようにしか見えないんだけど』

『違うよ』

『……素直になれよ』


まあ俺も、いつまで続くかはわからないけどな。高瀬くんがそう珍しく弱気な言葉を呟いて、この話題は終わった。