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午後6時半頃、予告通り染谷くんは私のいるフロアへやってきた。


「松井」


小声だったけどよく通る声で名前を呼ばれる。
電話の応対中だった私は受話器を持ったまま慌てて振り返ると、染谷くんは指を差しながらパクパク口を動かす。


〝あっちで待ってる〟


その指は休憩ルームの方を差していた。私がそのまま2、3度高速で頷くと、染谷くんはくるりと向きを変えて歩いて行く。バッグも持っていたし、染谷くんはそのまま帰れるようだった。


(どうしよう。染谷くんを待たせてしまう)


この前も高瀬くんを待たせたばかりだったことを思い出して、気持ちが焦る。そして、こういう時に限って事はスムーズに運ばない。


『ーーもしもし?』

「し、失礼いたしましたお客様ーー」


染谷くんには悪いと思いながら、私は長引く対応に戻った。