(うう、緊張する……)


営業部フロアに来るのは久しぶりだ。普段は用事もないため、この階に来ること自体滅多にない。

私はそろそろと歩を進めた。


(染谷くん、いるかな……)


ちらちらと外部の人間に対する視線を感じつつ、見知った姿を探す。すると、ふわりと甘い香りが漂った。


「松井さん、どうしたんですか?」


この香りの正体は仲川さんだった。癒し系を思わせるふんわりしたシフォンスカートがよく似合っている。


(か、かわいい……)


うっかり見とれていると不思議そうに首を傾げられたため、慌てて用件を話した。


「あの、今日、染谷くんは……?」

「染谷さんは外出中なんです。いつ戻るかわからなくて」


すみません、と申し訳なさそうに話す彼女の仕草は、女の子そのものだと思う。これだけ気遣いが出来る彼女はきっと、営業部のアイドルどころか女神級の扱いをされていることだろう。


「そうですか、出直します」

「あの、ご伝言があればお伝えしますけど」


にこりと微笑まれた。気持ちはありがたかったが、こんな個人的な伝言を伝えたところで、仲川さんの時間も無駄にしてしまう。


「い、いえ! 大丈夫です」


私はそそくさと営業部フロアから出た。
勇んで来たのに尋ね人が不在で恥ずかしくなってしまい、逃げるようにエレベーターへ向かう。


私はいつもタイミングが悪い。


普段なら諦めてしまうところだが、どうしても直接お礼が言いたかった。帰りにまた再挑戦しようと決意して、私は仕事へと戻った。