少女は、パタパタとスリッパの音を立て、階段をかけ下がった。

周りに誰も居ないことを目で確認し、玄関へ忍び足で向かう。

灯りは、ただ一筋の月の光だけ。
それを頼りに、外靴を履いた。

ごくり、と生唾を飲むと、玄関のドアをそっと開けた。
外は車通りも無く、音は蛙がポツリポツリと鳴く声しか聞こえない。

急いでドアを閉めると、暗い夜道を歩きだした。


こんな時間に外に出るのは初めてなのだから、少女は少しウキウキしている。

途中でくるんと回ってみたりして、お姫様みたいだ、と喜んだ。

上を見上げると、星が無数として広がっている。天文学はまだ彼女にとっては無知の世界だ。

あの星座は夏の大三角形だ、とか、あれは獅子座だとか。

彼女は知るよしも無かったし、何より、星を見たことが無かった。

上だけに見とれていた少女は、クラクションの音で、バッと顔を元の位置に戻して、音のした方を見る。

そこには、おそらく警察であろう影が佇んでいた。
辛うじて分かることは、少女がこんな時間に出回っているのを見て、不審に思い、家に帰そうとしていること。


少女はゆっくりと近づいてくる影を拒むように逃げだした。
後ろから、ヒタヒタと足音が響いてくる。


それは徐々に速くなっていって、すぐ少女の隣にくっ付きそうな勢いにまで達していた。


怖くて必死で。
半泣きになりながら逃げ出した。