たとえば呼吸をするように

両目が見えてたって、肝心なことは何ひとつ見えてなかった。


「つち──」


土屋の名前を口にしたのとほぼ同時に、強い力で身体を引き寄せられた。

抱き締められていることを理解したのは、それからすぐのこと。


「つち……や?」

「嫌なら……突き飛ばして逃げて」


震える声で絞り出された声に、私は抱き締められた腕の中で必死に首を振った。

嫌なんて、嘘でも言わないよ。


「もう知らねーかんな……」


弱々しく呟いた土屋は私の肩に顔を埋めて、また頬を涙で濡らす。

それをただ受け止めるしかできない、無力な私。


「っうぁぁ……っ」

「……っ」


悲痛な叫びが、声にならない声にのせて私へと届く。

その傷の深さを理解することは出来ないけれど……だからと言って、目を逸らしたくないよ……。


「何でも……思ってること、全部言って……。私じゃ頼りないかもしれないけど……絶対、聞きこぼしたりはしないから……」


こんなことくらいでしか、寄り添えない。

けど、出来る範囲の中で、精一杯土屋を想う。