たとえば呼吸をするように

「ぁ……」

「柳……」


この距離でも……私だとわかってくれる。

それが嬉しいなんて、なんて勝手な恋心。


「なんで……」

「ごっ、ごめん!ケータイ忘れちゃって……」


重苦しい空気を吹き飛ばそうと声を張り上げてみるも、無意味なことはわかってた。

わかっていたからこそ、また涙が溢れて。

私が泣くのはずるい。1番つらいのは土屋なんだから。

頭では理解していても、止められない。

そんな私を見て、土屋は苦しそうに顔を歪める。


「なんで……お前が泣くの」

「ごめ……っ」


なんで。そんなの、一言じゃ表せないくらい沢山ある。


土屋の目が殆ど見えないこと。

土屋の世界がくすんでしまうこと。

土屋が見る景色がぼやけてしまうこと。


だけど何より苦しいのは、それを隠して笑っていた土屋の本心を見抜けなかったこと。


当たり前に見えていたものが突然見えなくなることに対して、平気でいられるはずないのに。

強く見えていたのは、きっとそうすることでしか自分を保てなかったから。