たとえば呼吸をするように

グランドから聞こえる野球部の声がはっきりと聞き取れるほど、オレンジ色の校舎は静寂に包まれていた。

ぺたぺた、薄っぺらい上靴で歩く私の足音だけが廊下に響く。


本当疲れた……。

ケータイ回収したら、さっさと帰ろう……。


はぁ、と溜め息を吐いて、教室に繋がる角を曲がった刹那、


──ガンッ……

静かだったはずの廊下に鈍い音が響いた。

予想だにしなかったそれに、心拍数が上がるのを感じる。


な……何……!?


恐る恐る1番手前の自分の教室を覗き込む──と、


「……っ!?」


教卓の前、自分の席の傍でひとり佇む土屋がいた。

時折嗚咽を漏らすその背中は、大きいはずなのに小さい。


「……っあ」


あまりに突然のことに、目の前の光景が信じられずにいる。

信じられるわけないよ……。

いつも明るくて、太陽みたいに笑ってる土屋が……泣いてる、なんて。


「なんで……なんで見えねえんだよ……っ」


どうして──平気だなんて思ったんだろう。

土屋は強いだなんて、どうして。


「……っ」


知らず知らずのうちに溢れてくる涙を拭おうとした時、扉に手をぶつけてしまう。

瞬間、土屋の顔がこちらに向けられる。