たとえば呼吸をするように

午後の授業、そして終礼を終え、廊下を歩いていた時。


「やぁーなぁーぎぃー!」


うげ!

名前を呼ばれて振り返ると、廊下の向こうに生徒指導の姿が見えた。

さいっあく……!


「おいっ!逃げるな!」

「じゃあ追いかけるなぁぁぁ!」


朝、門で止められたのに聞かなかったからだ絶対!

今日は早く家に帰って撮り溜めたドラマを見ようと思ってるんだから、捕まるわけにはいかない……!

いかない……のに、


「先山先生!柳捕まえてくださいー!」


私を追いかけながら生徒指導が叫んだのは、前方にいた別の生徒指導の名前だった。




……ツイてないの一言に尽きる。

進行方向を変えようと思っても、右側は壁、左側は教室。

走って振り切ろうと思っても、体育教師から逃れるスキルを帰宅部の私が持ち合わせているはずがなかった。




約1時間半に渡る、もはや耳にタコな説教を延々と聞かされ、漸く解放された時にはもうドラマを見る体力なんて残ってなかった。

しかも教室にケータイ忘れたし……と、これは完全なる責任転嫁。

茜色に染まる景色を眺めながら、生徒指導室を後にして教室を目指す。