たとえば呼吸をするように

こんな身なりだし、周りの人が少し怯えたことにも気付いていたけど、それを一々気に留める気にもなれなかった。




教室に入るなり、鞄を机の横にかけて顔を伏せる。


「おはよー」

「昨日ツイッターに上げたの見たー?」

「うわ、一限古典かよ!」


……うるさい。

いつもは気にならない雑音も耳障りでしかなく、耳を塞ぎたい衝動に駆られる。


今はもう、何もしたくない。

どうせ、担任だって朝礼が始まると進路進路って言うんだ……。


「柳?」


ふと、頭上から聞こえた大好きな人の優しい声。

瞬間、安心したのか瞳の奥から熱いものが込み上げてくる。


「……どしたの、お前」

「……別に」


声が震えないようにすることが精一杯で、顔を上げることなんて出来るはずもなかった。

だって私、土屋を見たら絶対泣いちゃう。


「今日はなかったじゃん、説教現場」

「……」

「怒声聞こえてこねぇから、思わず門で必死に金髪探したっつの」


私のことはつゆ知らず……ううん、知ってかもしれないけど、いつも通りのからかい口調で隣に座った土屋。

金髪を探した……か。


「……土屋」

「ん?」

「……やっぱなんでもない」


言いかけて、でも巧くまとめられる自信がなくて口を噤んだ。

それを口にしたところで、土屋は困るだけだろうから。


「なんだそれ」


ぽん、と大きな手が頭に乗せられる。

隣の席から伸びてきた、大好きなぬくもり。