たとえば呼吸をするように

「どうするのって言われても……」

「言われても、じゃないでしょう。受験生の夏なのよ?それなのに金髪になんかして!」


普段は温和だったはずのお母さんが口煩くなったのは、受験生と呼ばれる3年生になってから。

自分が大学受験で苦労した分、私には頑張って欲しいらしいんだけど……


「誰が何と言おうと金髪は直さないからね、私。受験の時は黒彩すればいいんじゃん」

「そういう問題じゃないでしょう!お母さんはあんたの為を思って──!」

「私の気持ちも知らないくせに勝手なことばっかり言わないで!」


何にも知らないくせに。

ある日突然、大好きだったはずのバスケや世界を奪われた土屋に、私が出来ることなんてこれくらいしかなかったのに。

好きな人の目に映りたいって、そう思うことの何がいけないの。


「そんな風に言うんなら、受験なんてしないよ!」


進路希望調査票をくしゃくしゃに丸めて、お母さんに投げつける。

溢れそうになる涙を見られたくなくて、私は自室へと続く階段を駆け上がった。