しばらくそうして抱きしめていた母は、ようやく体を離すと、涙で濡れた頬をそっと手で拭った。 その様子を見て、何となく理解した。 やっぱりあれは、夢ではなかったのだ。 「…お母さん」 優しい笑顔と、安心する香り、それから…包み込むような、温もり。 顔はぼんやりとしか思い出せないが、それだけははっきりと覚えている。 「弥生…?」 心配そうな顔で覗き込んでくる母をぼんやりと見つめながら、最後に見た笑顔を思い出していた。 あの人は、一体…誰だったのか。 *****