「笑いたくないときは、無理して笑わない。子供の時からそんな癖つけてると、大人になった時に心が疲れちゃうんだよ」
思わぬ行動に、驚きで目を見張ると、真剣な目が真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「体の疲れはね、簡単に癒せるの。でも心の疲れを癒すのは、とっても難しいんだよ」
子供だからと言って言葉を選ぶこともなく、その人はただ真っすぐに語りかけてくる。
その余りに真剣な様子に、堪らず半歩後ずさった。
「あっごめんね、怖かったよね」
それを見た女性は、再び柔らかい笑顔に戻って、少しだけ体を離して距離を置くと、再びこちらに視線を向けた。
「わたしにはね、弟がいるの」
この人は突然、何を言い出すのかと思った。
「うちはね、お父さんもお母さんも滅多に家にいなくて、たまに顔を合わせても喧嘩ばっかり…。弟はね、甘えたい盛りだったから…よくお母さんに抱きついては、“離れなさい”って怒られてた」
どこか悲しげに笑うその人を、今度はこちらがジッと見つめる。



