「ありがとうございます。でも、家の中だとお母さんの邪魔になるし、あんまり遠くに行っちゃいけないって言われてるので…」
振り返って視線を上げれば、妹の泣き声と、母の困ったような声が聞こえる家が視界に写る。
その視線の先を辿って、女性も一緒に家を見上げる。
しばらくして、その人が突然目の前にしゃがみこんだ。
「そっか、きみはとてもえらい子なのね」
にこにこ笑って、よしよしと頭を撫でられると、なんだか不思議な気持ちになる。
大人の人にこんなに優しくしてもらったのは、一体いつぶりだっただろう…ましてや、“えらい子”だなんて初めて言われた。
この頃の母の口癖は、“お姉ちゃんなんだから”ばかりで、久しく褒めてもらったことなどなかった。
父も、仕事から帰れば迷わず妹の元へ。
そこから、母と交代して妹の世話を始めれば、途端に“弥生はお姉さんなんだから”が口癖になる。



