大人の余裕を感じさせるその笑顔が、まるで子供扱いされているようで嫌いだった。
そんな笑顔で、自分を見つめてくる棗があまり好きではなかった。
「それじゃあ、ここだけの特別な話、してあげようか」
もったいぶったようなその口調に、咄嗟に心が身構える。
それでも、心の準備が出来る前に、棗の“特別な話”が始まった。
「弥生ちゃんも、菜穂に同じこと相談してたよ。皐月ちゃんが、自分のせいで無理してるんじゃないかって」
ギクシャクしてしまってあまりうまく話せなかった次の日は、決まって弥生の帰りは遅かった。
気まずくて帰って来られないんだと思っていたが、もしかしたら…そうではなかったのかもしれない。
「運動に勉強に習い事。本当にやりたいことを全部我慢して、ただ自分に追いつくためだけに頑張っているんじゃないかって。本当は、物凄く無理してるんじゃないかって」
同じ気持ちを抱えて、同じ場所を訪れて、同じ人たちに同じことを相談していた…たったそれだけの事なのに、何だか心がほっこりしてくる。



