本当は辛くて、悲しくて、たまらなく泣きたい時もあったくせに…強がって、なんでもないような顔をして、いつだって弥生は笑っていた。
「高校は別々だったから、最後に弥生ちゃんを見たのは中学の卒業式の日だったけど…。この店始めてから偶然お客さんとして来てくれて、久しぶりに会ったら、随分雰囲気が変わっててびっくりしたよ」
スッと遠ざかっていく手の平に、顔を上げた。
「すごく明るくなってた」
ニカッと笑った棗が、空になったコップと皿を手に洗い場へ向かう。
「それに、笑顔からだいぶ嘘くささが抜けたね」
水が流れる音を聞きながら、ぼんやりと棗の話に耳を傾ける。
「弥生ちゃんは、皐月ちゃんが思うほど無理なんかしてないんじゃない?」
キュッと蛇口を捻る音に、流れていた水の音も止まる。
時折雫が垂れる音以外、何も聞こえない厨房で、笑顔の棗と対峙する。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ」



