「弥生ちゃんがさ、皐月ちゃんは、食パンの耳が固くてあんまり好きじゃないみたいだって言ってたから、そこだけ気持ち多めに卵液を含ませてみました。どう?特製って感じ伝わった?」
弥生の家に泊まった時の朝食は、大抵いつもパンだったが、食パンの耳が苦手なことは今まで話したことはなかったはずだし、気づかれないように何食わぬ顔で完食していたはずだった。
けれど思い返してみれば、いつの頃からか朝食のパンに耳はついていなかった。
「そろそろ中身も出てきたかな?」
棗の声に、ハッとして手元を見つめれば、二枚のパンの間でキラキラ光る赤い色が見えた。
黙っていればパンの中からこぼれ落ちてくるそれは、嗅ぎなれた甘い香りを伴ってトロッと指を伝う。
お行儀が悪いこともすっかり忘れて、慌てて指に伝ったものを舐めとると…後味のいい自然な甘さの中にスッキリとした酸味。
「皐月ちゃんは、実は大のイチゴ好きって、弥生ちゃんから聞いたからさ。この前試作で作ったイチゴジャムを、たっぷり入れてみました!これでスペシャル感も伝わったかな?」



