「へー、ぼくはてっきり、その”さつき”って人のことが好きなのかと思ってたよ」
「はああああああ?!!!!」
木田の驚きの発言に、思わず声が大きくなる。
弥生のことを思えば自然と頬も緩むが、皐月のことを考えると、思い起こされる苦い思い出の数々に思わず顔が歪む。
店中の視線を一挙に浴びて、堪らず首をすくめると、ズイっと木田に顔を寄せた。
「それだけは絶対ありえませんから!弥生さんはおしとやかな乙女ですけど、あいつはゴリラの化身なんですよ。弥生さんが天使!って言うより女神なら、あいつは悪魔なんです!いや…悪魔なんてかわいいもんじゃない、魔王とか魔人とか……とにかくそういうやつなんですよ!!」
余りに距離が近すぎたのか、木田が心底嫌そうな顔で肩を押しやる。
「それは知らないけど、三上の話には絶対登場するから。しかも何回も」
そう言われても、自分には全く思い当たる節がない。
けれど確かに、弥生のことを思い浮かべていたはずなのに、いつの間にかそれが皐月に移り変わっていることは多々あった。



