家に着くまでの距離、あたしたちの間に会話は無かったけど、それでもすごく嬉しかった。

触れそうなくらい近い肩が、遠ざかっていた距離を少し縮めてくれたような気がしたから。

その時にはすっかり昨日のキスのことなんて忘れていて、思い出したのは自室でバニラクッキーを見つけた時だった。


机の上に置いていたクッキーを見て、沸騰しそうなくらい顔が熱くなったあたしは、その場でへたり込んだ。


そ、そうだった……!

だから、あたしはバカなの?

忘れていたとかありえない。


「……」


シンプルな透明の袋を開けると、甘いいい香り。


一口かじると、大好きなバニラが広がる。


「あまい……」


あたしはずっと、今日の翼の顔を思い出していた。