歩いている翼と不意に目が合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。


「ね、このはと芦沢くんが幼なじみって本当?」


周りの目を気遣っているのだろうか。
仁奈が、小さな声でコソコソと聞いてきた。


「うん、一応ね。家もすぐ隣なんだ」

「そうなんだ~、いいなぁ」

「そんなことないよ……」


幼なじみだろうが、そんなことはもう関係ない。

翼は女嫌い。

あたしも例外じゃない。

昔に仲が良かった分、他の子よりもずっと辛い。

甘いバニラの香りが、遠ざかっていくだけ。