無糖バニラ

一瞬、中学の頃の翼の記憶が脳裏を過ぎった。

それで、笑いながらこう言うんだ。

――『女子なんだから折りたたみ傘くらい持っとけよ。俺の傘、入れてやってもいいけど』


同じ、紺色の傘。


「傘……、入れてくれるの?」


お願い、翼。

同じ言葉を返して。


あたしはやっぱり、昔みたいに翼のそばにいたい。


翼は、周りをキョロキョロ見る。

他には誰もいない。

ここには、ふたりだけ。


何かを言おうと、翼が口を開いた時。


「内海、傘持ってないの?」


後ろから現れたのは、小嶋くん。