顔が近づいて、息が止まる。

全身の血が唇に集まっているような熱さに、体が動かなくなった。

両手じゃ足りないその回数を、また数え忘れた。


お互いの顔に距離が出来ても、まだ動かないでいるあたしを見て、翼は笑って言った。


「バニラ味」


無意識に力を入れすぎて、手に持った食べかけのクッキーがパキッと割れた。


「な、何で今なの!?」


もっとさぁ、違うタイミングあったじゃん!

ぷるぷる震えるあたしを見て、翼は楽しそうにベーっと舌を出した。


バニラの香りと、苦い君。

この幼なじみとの恋は、甘いだけじゃ始まらないらしい。