無糖バニラ

腕を引かれながらだから、靴を脱ぐ時に転びそうになる。

相変わらず、このお家は甘くていい香りがする。


行き先は、もう分かっている。

翼の部屋。

翼の両親はお店の方にいるのか、家の中には人の気配がしない。

こんな、涙でぐちゃぐちゃになった顔を見られなくて、ちょうどよかったかもしれない。

でも……、誰か止めてくれなきゃ、あたし、翼の部屋に行っちゃう。

ふたりきりの空間に。


ただ前を見て手を引いていた翼が、振り向いた。

少し驚いた表情で。

つかまれた手に目をやると、あたしは無意識の内に翼の手を握り返していたらしい。