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玄関の扉を開けると、朝の少し肌寒く感じる爽やかな風をすうっと吸い込んだ。

甘い香り……。

夏が涼しいのなんて、朝だけだ。

制服の長袖シャツをさする。


あたし、内海(うちみ)このはは立ち止まり、隣の家を仰ぎ見た。

『パティスリー Vanilla』。

そんな看板を掲げたケーキ屋は、名前の通り、いつもバニラのいい香りがする。


昔から大好きな……


ガチャッ、リンリーン。

お店の正面入口のドアが開いて、軽快なベルの音が鳴った。

そこから姿を現したのは、あたしと同じ学校の制服を着た同い年の男の子。


「おっ、おはよう!翼(つばさ)!」

「……ああ」


翼は、あたしをチラッと一瞥(いちべつ)しただけで、無表情で歩いていってしまった。


……分かってたけど。

今日も、結構勇気出したのに。