「泣くな……」

「翼のせいだよ」

「どっちなんだよ、お前……」


呆れるようにうなだれる姿が目に映る。


「“お前”とか“こいつ”とか呼ばないでよ。翼、もうずっとあたしの名前呼んだことないんだよ……」


風邪を引いて寝ぼけて呼ばれただけでも、嬉しくなるくらいに。


覚えてる。
最後にちゃんと呼ばれたのは、1年前。

ベッドの上の、初めてのキス。

あれは、絶対翼だったはずなのに。


「翼には嫌われたくないの……。好きじゃなくていいから、だから……」

「このは」


今言ったの、誰?


あたしを呼んだのは……。


視界がフッと暗くなって、目の前には翼の顔が。


避けようと思えば、避けられた。