涙がこぼれる直前で、その場から立ち上がった。

自分が今日何をしに来たのか、忘れてしまいそう。


バカ、バカ、バカ。

翼のバカ。


だけど、キスをされて嫌じゃなかったあたしは、もっとバカなのかもしれない。

1年前のあのキスも、翼だったら良かったのに。……なんて。

そんなことを考えたところで、無駄なのに。

ドアノブに触れる。


「お大事に」


扉を閉める直前でそう呟いた。


――パタン。


「平気なわけないだろ」


翼が扉に向かって放った言葉は、あたしには届かなかった。