「…だから僕は知らないって言ってるだろう?失敗したくせに偉そうなこと言うなよ」


部屋の外から聞こえるヒソヒソ声に意識が戻った樹荏。


ゆっくり起きてドアに耳を当てる。


「そう指示はしたけど相手はたかが自転車のヤカラだったんだろう?金は渡したし後は知らない。証拠もない」


すべてを察した樹荏が、ドアを静かに開け、背を向けて通話に必死の諏訪に近付いた。


背後からスマホを取り上げると、通話音量を最大にし、録音機能に切り替えた。


今の諏訪の言葉で相手の怒りに火が付いたことは想像できた。


静かな廊下に相手の興奮した怒鳴り声が響く。


「そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがある!!お前の会社がどうなってもええんやな!?」


「さあてと、どういうことか、聞かしてもらおか」


慌てた諏訪が、


「す、スマホ!!返せ!!」


腕を振り回し、必死で取り返そうとする。


「ただの野猿のヤカラや思うてもろたら困りまんなあ」


すり抜ける樹荏。


「百万歩譲っても、本気で咲希を思ってるんやったら、ただのいけすかん兄ちゃんやったけど、ことと次第ではタダでは済まへんで」


また樹荏が本気の目になる。


「この!!お前に何がわかるんだよ!?」