昼休みを過ぎても返しに来ないので、ついにテキストをパクられたかもと思った。
「ありがとう」
でも、講座の教室でいつもの席に座ると隣に来た。
差し出されたテキストを受け取る。そのまま隣に座るのを見て、なんだかこの不自然な距離の詰め方に違和感を覚えた。
「神津さんのテキスト綺麗だよね」
隣の席から聞こえる声。
もしかして、あたしが夢をみていたことを知ってるとか?
それを口止めに近付いてきている、とか。
あり得る。マオが良い例だ。
「名前なに?」
「は?」
「君の名前」
テキストのコピーを広げていた。それから普通に名乗った。
荻野羊佑というらしい。



