何かを言おうと口を開く。掌を見せてそれを制した。
「違う、小塚繭巳は確かに君のことを知っていたけど。羊佑が先生を好きなことはあたしが直接知った」
「その理由、言いたくないことに理由があんの?」
目を覗かれる。
人の瞳は深淵だと思っている。心も、夢も同じだ。
夢を覗くことは、瞳の奥を覗くこと。
瞳の奥を覗くことは、心を覗くのと同じこと。
それを知って、あたしは最低なことをしているのだと実感した。
「言いたくないなら良いよ。だから泣きそうな顔すんな」
あたしが掌を見せられる番だった。
長い指の向こうで羊佑が優しい顔をしている。泣きそう、と言われた。目を逸らす。



