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 さっき、三年生二人からの野球部スカウトを、即・断った中島君は……


「たくっ! 冗談じゃない! 何で新入生を絡む卑劣なヤツらと一緒に、甲子園目指さなきゃいけないんだよっ! 俺は帰宅部希望だっつーのっ!」


 と、歩きながらグチを言っていた。

 でも良かった。中島君が何もされなくて。


 それと──


(君の大事な『彼女』に手を出してしまって……)


 中島君の彼女って……言われちゃった……。


 違うけど、嬉しいな……な、なんちゃって! やだなぁ。そんなの、絶対ないのに!

 この中島君が、私のことを好きなワケがないし……。

 でも私は、中島君のことが……


「……なぁ、二宮」

「あ、なっ……何?」

「二宮は……何部に入るの?」

「えっと……私も、帰宅部……かな」

「そっか。一緒だな!」


 笑って『一緒』って言ってくれた。

 何てことないことでも、胸がキュンとしちゃう……。


「はぁあ。しっかし、入学早々いろいろあったな~」

「あ、ごめんね。私のせいで中島君にまで、変なことに巻き込んじゃったみたいで……」

「二宮は悪くないって。それに……悪いことばかりじゃないし」

「え?」

「……ううん。こっちの話。というわけで、二宮」

「は、はい……」


 中島君は立ち止まって、私と向き合った。



「同じクラスで、同じ出席番号同士……
 これからもよろしくな!」

「……うん! こちらこそ、よろしくね!」



 本当、入学早々いろいろあったけど……

 いろいろあって、良かった。



 だって、中島君と仲良くなれた。



 中島君を……

 好きになれた。



 始まったばかりの高校生活。

 これからも、いろいろありそうな予感がする。



 朝の爽やかな雰囲気に包まれながら、私は中島君と並び直して、学校へと歩き出した。



~終わり~