え……な、何? 今の……。


 三年生二人に絡まれていたら、急に何かが飛んできて、壁にドコッ!! と当たった。

 壁を見ると──



 わっ! 野球ボールがめり込んでる!

 すごーい……。これ、一体誰が投げたの?




「すいませーん! 投げたの俺でーす!」




 ……え?


 手を軽く振りながら駆け寄って来た、黒髪のショートで凛々しい顔をした男子。それは、見覚えのある人だった。



 あ、この人……同じクラスの中島君だ。私と同じ出席番号の……。

『俺でーす!』ってことは……これ、中島君が?

 見かけによらず、すごい力……。



 絡んでいた三年生二人は、まだア然としていた。



「二宮。今のうちに行こうぜっ」

「えっ? ……えっと……う、うん……」



 ア然としっぱなしの三年生二人をそのまま置いて、中島君とこの場から離れた。




 ……って、え? ……うそ……。

 もしかしてだけど、これって……

 私のことを、助けて……くれたの?




「……あ、あのっ。中島君っ?」




 先を歩く中島君の隣まで追いつき、話しかけると──



「……二宮、大丈夫? あの二人に何もされなかったか?」



 と、歩きながらも、心配そうに私を見下ろした。



「う、うん……何もされてないよ」

「そっか。なら良かった」



 何もされてないと知った中島君は、安堵の笑みを浮かべた。




 うわぁ……なんて優しい人なんだろう……。

 男子からこんなに優しくされたの……私、初めてかも。



 そう思ったら、涙が自然と頬(ほほ)に流れ落ちた。



「あっ、ごめんね! 私っ……」



 やだ。いきなり泣いちゃうなんて! これには中島君……引くかも。

 慌てて涙を拭(ぬぐ)うと、中島君はふいに立ち止まった。



「怖かったんだろ? 無理もないよなー。あんな図体デカくて、いかにも悪そ~うな二人に絡まれたんだからさぁ……。
 はい、これ使いなよ」



 うそ……引くどころか、気づかってハンカチまで差し出してくれた。



「あ……ありがとう……」



 そっと受け取ると、胸がギュッと苦しくなった。



(…………中島君…………)