「……夏」

「ああ。やっぱり、伊紅は忘れてたんだな。」


正直、それは悲しかった。

なんで、よりにもよって、昔のことなんて、忘れてしまったんだろう。


「麗。」

「なに?」


「おまえは、諦める?」

ニヤッとする夏。

俺もニヤッとして返す。


「……まさか。伊紅のこと、9年間も思い続けてきたのに」

「……だよな」


そう言う夏。


「なに?俺に諦めてほしかった?」

「……まあな」


「……俺も。夏は本当にヒーローみたいなこと言うし、実際にやってのけちゃうから、伊紅を持ってかれないか、不安」

正直なことを言うと。


「……俺もだよ。本物のアイドルは、お前みたいなヤツのことをいうんじゃねーかって、いつも思ってる」

「あははっ、思ってること、同じだね」


「……ああ」


ひとしきり笑ったあと。


「伊紅には悪いけど、俺らは積極的に攻めよーぜ」

「俺たちのファンからも守んなきゃね」


そう言いあって、屋上をあとにした。