もう、誰よ。

勢いよく振り返れば、私を怒らせた張本人。

「……なんですか?」

冷ややかに聞いてみる。

「帰るのか?」

感情の読めない表情の男にイラってきて、視線の先のネクタイの結び目を見ながら

「今日来たのは、先週ご迷惑をおかけしたと志乃から聞いたので謝罪するつもりで待っていただけです。あっ、そう言えばまだ謝罪してませんでしたね…先週は、酔っていろいろご迷惑をおかけしました。家まで送ってもらいありがとうございました。でも、もう、会う事はないと思うので、ご迷惑をおかけする事は2度とないと思います。では、これで、し、つ、れ、い、します。さ、よ、う、な、ら」

言いたい事だけを淡々と言い、五十嵐さんの顔も見ずにクルッと向きを変えアパートに向かって歩き始めた。

雨と風が、ドンドン酷くなるけど、私は怒りが収まらないせいで、近くのコンビニに立ち寄る事もせずに濡れたまま歩みを進め怒りを落ち着かせようともがいていた。

すると、突然雨が止んだ。

そんな訳ない…目の前の向こうはザーッザーッと雨が降っている。

斜め上に視線を向ければ、風に押され今にも折れそうにしなっているビニール傘がいた。