中崎町アンサンブル

「あの……」と僕は言った。

「あら」と彼女が返した。

それから一言、

「何かお探しですか?」と微笑んだ。

「ええまあ」と僕は答えた。

答えてから首をかしげた。理髪店で「何かお探しですか」と言う挨拶があるだろうか。


「理髪店ですよね?」と尋ねると、彼女はまたにこりと微笑んで「ええ」と言った。

それから一言、

「違いますよ」と続けた。


僕は少しだけ混乱した。

でも、そんなちょっとした混乱はもう、さっきのしゃべる黒猫で慣れていた。