中崎町アンサンブル

気がつけば、路地のあちこちから灯りが漏れている。思いの外新しい店が多い。

元々あった古民家を改修してるのさと黒猫は言う。少し前まではさびれかけていたこの町に、おかげでまた、こうして活気が出てきているんだよ、と。

なるほど表向きはレトロなのに、どれもこれもが今風に洒落ている。

「賢治の言葉を知っているか」
と黒猫が問う。
「ここはさながらポラーノの広場さ」と。

「それは何?」と僕は尋ねる。

すると黒猫は「これだからガキは嫌いさ」と言って前足で顔をこすり、それきり二度と喋ることはなかった。



その時見つけた店がある。

八時十六分。
約束の時間。

店の入り口の大きな窓に、「中崎理髪店」と縦書きされたあの店は、きっともう、今は営業していない。