中崎町アンサンブル

足下の波紋の数を数えながら、黒猫と一緒に帰り道を歩く。
紺色の道に影が伸びる。

小走りな黒猫の波紋は、まるで盲目のイルカが海に潜るように、音もなく僕の世界から消えていく。僕は白いただの紙切れになった招待状を片手に持ち、H&Mで買ったトートバックを肩にかけ直す。

それから一度だけ振り返り、アキドリにもらった腕時計をそっと撫でた。



十一年前の夏休み。
彼女は星の塔から飛び降りた。

二学期の始め、女子がそう噂していた。
先生は「急だけど、取手明菜さんは転校されました」と僕に言った。

その日僕は、家に帰っていっぱい泣いた。



【中崎町アンサンブル】完