中崎町アンサンブル

彼女は何をする様子もなく、静かに塔の壁にもたれかかって山の木々を見つめていた。

かける言葉も見当たらない僕は、ゆるりと風になびく彼女の長い髪を横目に感じながら、見るともなく見つめる彼女の視線の先を追いかけた。

青々と生い茂った、まるで森のような木々の先に、僕たちの学校の屋根が見えた。

今頃は何の授業だったっけ?

そんなことを思いながら、「学校は嫌い?」と尋ねると、五秒くらいしてから「別に」と彼女は答えた。

「家は?」
「嫌い」
「兄弟は?」
「いない」
「とおさんは?」
「いない」
「かあさんは?」
「嫌い」
「じゃあ……何が好き?」

と聞くと、彼女は少し考えた。それから足を前に投げ出して、「ひとりでいる時かな」と言って僕を見た。