雨音だけが聞こえる公園で二人だけ、話をするなら都合の良い空間だ…しかし要は眉間にシワを寄せ話すべきかを考えている…
最初に口を開いたのは明音だった
「言いたくないならそれでもいいよ……でも…二人がケンカしてるのは嫌だよ…律くんがあんな顔するのはもっと嫌だよ!」
律の表情が再度、要の頭を過り頭痛がした
「一番辛いのは要くんなのかも、だけど……律くんの事だけじゃないよね?もしかしてお姉ちゃんが関係してる?」
明音の言葉に要はキョトンとした
「なんでわかるの?明音ちゃん」
視線を雨の降る公園へ移しながらハァ~っと息を吐き、明音は言う
「やっぱりかぁ~…要くんが“それなら律の方だって!”って言った時に気が付いちゃったよ…」
もう隠す意味は無いと要は感じた
「ーー…大体は予想通りだと思うよ…少し前の事なんだけど…学校の廊下で、千尋が話してるの聞いたというか見たというか…」
少し遠くを見る様な瞳で要は語りだした…
「恋愛については男女関係無く話するもんだと思うよ?友達が千尋に聞いてたんだよ“どんな男が好き?”ってさ…女の子たちの話を盗み聞きするのは嫌だったけど、気になっちゃって…」
明音は要と同じ方向を見ながら黙って聞く
「それで、千尋が言ったんだよ“強い人”ってさ…俺でも解ったよ、恋する乙女って顔してたもん…でも、ここからが問題なんだよなぁ…アイツが出てきたんだよ!」

「アイツ?」

「そうアイツ!善一朗!……“弁慶”って知らない?」

「もしかして…橘センパイ!?」


橘 善一朗

要たちと同学年生、物腰優しい穏和な性格で成績優秀、容姿淡麗な為か学年を問わず人気が高い…しかしその外見に反し、通り名は“弁慶”…幼少の頃より祖父がかまえる道場で橘流武術を教育され皆伝を得ている…他の武道は習っておらず段位なども持っていないが、昨年度1年生でありながら助っ人として参加した空手部を白帯を腰に巻き、団体戦を全国へ導いている…不良グループでさえも橘を避けているらしい…
おそらく現在で学校内最強の男である。

「善一朗が千尋に挨拶してたんだけど、やけに親しげで…それに…千尋が凄く嬉しそうな顔だったんだよ…」
話を聞いていた明音は俯いてしまう
「明音ちゃんはもう判ってるよね?律はずっと千尋の事が好きなんだよ!本人は言わないけど…でも相手が悪すぎるって!学校内最強だよ!?」