恐々と指先で肩を叩くと体勢が変わり、景子の横顔がちらりと見えて気付く。
“あっ…寝てる…”
ゆっくり瞼が開き景子が起きると勇は再度、声を掛け直す。
「えっと…せっかく寝てるとこ…ご…ごめんね?」
まだ少しぼんやりとした表情の景子は片耳のイヤホンを外して勇の方を向く、いつもの威圧的な目付きではない
「ん?何?何か用?」
途中で目付きが変わるが勇は決して視線を逸らす事はしない『話す時は相手の目を見て喋る』そう教えられ育ち、自分の信条にもしている。だが臆病な性格と異性への緊張の為か言葉が詰まりぎみになってしまう。
「う…うん…これ…しょ…職員室で先生から…預かった…プリント渡してって…」
勇が差し出したプリントをさっと受け取る景子
「あっそ、ありがと…」
景子はプリントの内容を確認しながら外したイヤホンを着ける。その瞬間に聴こえた音楽に勇は聴き覚えがある。
“あれ?この曲って…いや…まさかね…”


ーー勇も昼食を取り、午後の授業も終了、そして放課後になり、あとは帰宅するだけのはずが突然に景子が両手を合わせて勇にお願いする。
「石田っ!頼む!掃除当番代わってくれ!用事に遅れそうなんだ!」
よくある事なので勇は二つ返事で応える。
「うん、かまわないよ」
一言だけ「悪い!」と言い放ち、景子は急いで教室を後にする。勇は掃除を馴れた動きで終らせゴミ袋を回収場所に置いて帰路に着く
“久賀さん…用事間に合ったかなぁ?…そうだ帰りにカフェ寄って行こ”