「そ、そんなことはないですよー!」


悠紀が慌てて否定する。そこに葵が口を開いた。



「俺達は尚さんたちのせいだなんて思ってません。
...ただ俺は...ただ、個人的に
女とか暴走族に入れることに納得できねーんです」



沈黙が流れる。



「...それは」



沈黙を破ったのは茜だった。



「危ないから、か?」



「...そもそも、姫があること自体がおかしいと思います。
所詮俺らは暴走族。反社会組織なんです。...それなのに
姫を守るなんて言ったって、守るどころか危険にさらすだけです。
まず族にただの女を入れてなんになるんですか...?」




辛そうに顔を歪めて、普段ほとんど動かさない口で語る。




「姫なんて役割無駄だとしか思えないんです」




守ってもらうだけのお姫様。族の人間からすればただのお荷物。




背負わなくていいお荷物を自ら背負うのは愚かだ。




そう、心で思っているだろうことが、葵の表情からうかがわれた。



「...葵は賢いな。
俺は煌月の時に気づけなかったよ。
葵の言う通り、姫なんて自分の大切な人を危険にさらすだけだ。
姫がいても族は強くはなれない。
だって護りながら喧嘩するなんて器用なこと、
たかが高校生にできるわけがない。」



尚がそっと目を伏せる。



...でも、と茜が続ける。




「俺は、姫がいてもいいと思う」



茜は、煌月全員を見てゆっくり言った。




諦めの混じったような、それでいて自分にも言い聞かせてるように。




「もう、時代が時代なんだ。族なんてほとんどなくなって来てる。



煌月だって、全盛期はとっくに過ぎているし。



せいぜい、俺の兄貴らの代が暴走族のいてもいい時代だな。



...言い方がおかしいとおもうが、もう時代遅れなんだよ。



喧嘩も抗争も、昔と比べたら全然少ない。



煌月も、今はただの不良グループみてぇな状況だからな。



姫が危険になるほどの抗争なんて、そうそうねぇよ。



けして、油断してるわけでも、安易に考えてるわけでもない。



...それが、今の現状なんだ」








それが、今の現状なんだよ、と。




...誰も、何も話さなかった。




何も言えなかった。




しばらく経った。



ふいに、屋上のドアが開く音がして





張り詰めていた空気は、ふっと緩んだ。