私は、キョトンとする。
「分かりません。私、自分の好きな物とかって考えた事がないので」
ただ、お腹が空いたから食べる。
食べ物なんて、そのくらいにしか考えた事はないし。
だけど…
「でも、このラーメンは…好き…です」
“好き”
“好き”か…。
その言葉を口にした途端、胸の中で何だか生暖かい気持ちが広がっていく。
くすぐったいけど、嫌な気分ではない。
不思議な気持ち。
“好き”だなんて、初めて口にしたかもしれない。
「はぁぁぁ〜。」
先生が、カウンターテーブルに急に突っ伏するものだから、私は思わずギョッとした。
「な、何ですか?」
「いや…」
先生は、そのままの状態でチラリとこちらを伺う。
何かと首を傾げると、
「何か俺、どうしようもねぇなと思って」
先生にしては珍しく、弱々しい声でそんな事を言う。
「何かさ、お前の一挙一動に振り回されてるなって。
様子が違えば心配になったり、なかなか思うように返って来ないお前の反応にいちいちイライラしたり…」
あぁ、だからか。
さっき、何か怒った様子だったのは…。



