先生。あなたはバカですか?


そんな目に見えない物、信じられるわけがないじゃない。


「…くだらない」


私は、先生に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう呟くと、カバンの中にしまっていた参考書をおもむろに取り出す。



予備校まで後10分くらい。


この人と話をしているくらいなら、勉強でもしていた方がよほど効率的だ。


行き先は出発前に伝えてあるのだし、癪ではあるが運転は任せるとして…




そう思った矢先、窓の外の景色に度肝を抜かれる。



「先生っ!!道が違います!! 」



予備校は、今の交差点を右のはずだけど!?



「良いんだよ。これで」


焦る私とは裏腹に、先生は落ち着き払った様子で前方に目を向けたまま。


良いんだよって…


まさか…



「ちょっと付き合え」




拉致ですか!?










どれくらい車に乗っていたのだろう…。


とある路地の一角にある駐車場で降ろされると、私は放心状態でその場に立ち尽くしていた。



予備校は…もう始まっている時間だわ…。


私…さぼってしまった…。


人生で初めて、さぼりなんてしてしまった…。




とてつもない罪悪感で指先が冷たくなっていく。