そんな目に見えない物、信じられるわけがないじゃない。
「…くだらない」
私は、先生に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう呟くと、カバンの中にしまっていた参考書をおもむろに取り出す。
予備校まで後10分くらい。
この人と話をしているくらいなら、勉強でもしていた方がよほど効率的だ。
行き先は出発前に伝えてあるのだし、癪ではあるが運転は任せるとして…
そう思った矢先、窓の外の景色に度肝を抜かれる。
「先生っ!!道が違います!! 」
予備校は、今の交差点を右のはずだけど!?
「良いんだよ。これで」
焦る私とは裏腹に、先生は落ち着き払った様子で前方に目を向けたまま。
良いんだよって…
まさか…
「ちょっと付き合え」
拉致ですか!?
*
*
どれくらい車に乗っていたのだろう…。
とある路地の一角にある駐車場で降ろされると、私は放心状態でその場に立ち尽くしていた。
予備校は…もう始まっている時間だわ…。
私…さぼってしまった…。
人生で初めて、さぼりなんてしてしまった…。
とてつもない罪悪感で指先が冷たくなっていく。



