森田先生がそう教えてくれた。


そう。


先生は、私を忘れてなんかいなかったんだ。



「何で忘れたふりなんかしてたんですか!?もしも今日、私が森田先生に教えてもらわなかったら、これからもずっと、私は先生が私を忘れてしまったんだと思い続けてたんですよ!?」


沈黙が、準備室内を包み込む。


もしこのまま、何も知らずに今日この学校を去っていたらと思うと、背筋がぞっとする。


そうなっていたら、私は二度と先生に会う事はなかっただろう。


先生への届かぬ気持ちを抱え、生涯先生だけを思って、生きていくつもりだった。


そして、いつか永遠の眠りにつくその時には、先生と過ごしたあの日々を思い出して、その時だけは満たされた気持ちで眠りにつこうって。


そこまで覚悟していたのに……。


先生が記憶を失っていないのなら。


私を覚えているのなら。


わざわざそんな切ない人生を選びたくなんかない。



先生は小さな溜息を吐くと。


「……その方がいいと思ったんだよ」


そう言った。



先生の憂いを帯びた切なげな表情に、心臓をギュッと握り潰されているような気持ちになる。



“その方がいい”って何?