準備室のドアを開けると、向かいの窓から射し込む夕日が眩しくて、咄嗟に手で光を遮った。


朝はあんなにどんよりとした曇り空だったのに、今は雲の切れ間からオレンジ色の光が射している。


その光の中に浮かび上がる、大好きな人の背中。


自分のデスクに気怠そうに頬杖をつきペンを走らせ、何やら作業をしている。


「何か用かよ。頭突き女」


振り向く事もせず、入ってきたのが私だと言い当てる先生。


なんだか癪だけど、こんな所でさえ好きって思うんだから、私って本当にどうしようもないなって思う。


「何で、私だって分かるんですか…」


「勘」


今しがたしていた作業の手を止め、ゆっくりとデスクの椅子ごとこちらへと振り向く先生に、自分の喉がゴクリと音を立てるのが分かった。


「何か用?」


心臓の音がみるみる速さを増していく。


震える唇で、私はなんとかその言葉を紡ぎ出した。


「……何で、言ってくれなかったんですか?」


「…何が?」




「しらばっくれないでくださいっ!

先生本当は、記憶を失ってなんかないんでしょ!?」


先生は、一度驚いたように目を見開く。


だけど、否定も肯定もせず、直ぐにまた元の表情へと戻った。



–––––『でも、それね、大丈夫だったらしいよ。奇跡的に手術が大成功したんだって。後遺症らしい後遺症が残らずにすんだって、前に岩田が言ってた』