だけど、あの時の私はまだ幼過ぎた。


先生の側にいる事が、逆に先生を悲しませる事になるって…。


先生は優しいから、きっと私の未来を自分が奪ったと責任を感じるだろうって…。


そう思ったから私は、先生が私に託してくれた夢を叶える方を選んだんだ。


それなのに……。



「あ。違うか。その“前”からだ」


「その…前?」


「岩田は、手術前からその子の事が好きだったって言ってたな」



––––––心臓が…止まるかと思った。



「…それ、どういう事ですか?だって…岩田先生は3年前以前の記憶がないんじゃ…」


「あれ?生田さんあいつの病気の事知ってたの?あーでも、それね––––」






–––––
––––––––––


「ハァッ…ハァッ」


私は、数学科準備室へと続く廊下を一目散に走っていた。


さっきから、


なんで?どうして?どういうこと?


そんな言葉ばかりが頭の中を駆け巡っている。


先生どうして…?



数学科準備室の前にたどり着けば、廊下の壁に背中を預け「お疲れ」と言って片手を上げる川島君の姿があった。


まるで、私を待っていたみたいだ。


必死で息を整えている私に。


「来ると思ったよ」


そう言う。


「川島君……?」