先生。あなたはバカですか?

もうこれ以上、川島君を待たせるわけにはいかない。


今まで散々川島君の優しさに甘えてきてしまったから。


だけど、いざ先生に再会してしまったら、その気持ちがグラついている自分がいる。


先生の姿を見るたび、心の奥底にしまったはずの淡い気持ちが疼き出す。


私はバカだ。


もう、先生はあの頃の先生とは違うのに。


私を好きだと言ってくれた先生は、もういないのに。


『……私ね。翠ちゃんには川島君と幸せになってもらいたい』


電話越しの花織ちゃんが、静かな声でそう呟く。


『きっと川島君なら翠ちゃんを幸せにしてくれる。ねぇ翠ちゃん。…翠ちゃんの事を忘れてしまった岩田先生を好きでいるのは、きっと翠ちゃんが辛くなるだけだよ?』


「私も…そう思う」


例えばこの先、先生だけを好きでいたとしても、もう二度とあの日のように想いが通じ合うことはないだろう。


だって私達がああして強く結ばれる事が出来たのは、それまでの経緯があったからこそ。


辛い記憶や悲しい記憶、楽しい記憶や幸せな記憶、お互いの沢山の記憶を共有し、分け合ったから。


だけど先生は、その記憶を失ってしまった。


私の事を忘れてしまった。



『私…もう翠ちゃんには、泣いてほしくないな』


「うん。ありがとう花織ちゃん」



揺れている場合じゃないよね。