「…翠の気持ち、痛いほど分かるよ。好きなのに、大切なのに離れなければいけない気持ち、お母さんもよく知ってるから」



お母さんの手が、私の髪を優しく撫でる。


「辛いよね。悲しいよね。…本当は側にいたかったよね」




お父さんがいなくなったあの日のお母さんの姿を思い出した。


去っていくお父さんを見つめるお母さんの寂しそうな後ろ姿が、今の自分と重なる。



お母さんも……そんな風に……お父さんの事を……?



涙が、とめどなく流れてくる。


お母さんは、「ちゃんと分かってるよ」と言って、私を抱きしめる腕に力を込めた。



お母さん……。


お母さん……。




優しくて温かいその体温にしがみつく。



「……言えなかったの……っ」



「うん」



「言いたかった……。でもっ……言っちゃいけないって……そう思って…私…っ…」



「…うん」



街灯の明かりだけが照らす、暗い静かな路地に、私の泣き声だけが響く。



こんなの先生が見たら、『何ガキみたいに泣いてんだよ』って笑われてしまうかな?


だけど、きっと私を抱き寄せて、優しく髪を撫でてくれるだろう。


そう思うとまた、次から次へと涙が溢れてきた。